男か女か2011年11月02日

 斜向かいに座った人が気になり、暫く見ていた。赤の他人をあまりじろじろ見るものではないが、相手は座って俯いていて私は立っているので、すぐには気取られることもないだろう。

 少し傷み気味の肩まである長髪に、ポイントフレームの眼鏡。上はエンジとオレンジの中南米調柄物のフリースで、下は黒いコーデュロイのパンツ。そして紫の革のショルダーバッグ。

 それのどこが気になるのかと言えば、文章では伝えにくいのだが、要するに男か女か分からないのだ。

 フリースはファスナーなので身頃で判断できないし、体型もよく分からない。ちらと顔を覗くとどうも中年男性にしか見えないのだが、まあこういう造型の女性もいると言えばいるだろうという範囲である。大体、鞄はどう見ても女物だ。朝の山手線車内ではあるが、三十後半で化粧っ気がない女性というのも、まあいるだろう。しかし暫く観察すると、この人はどうやら男性の様だという結論に至った。持ち物に隠れていた手を見て、ああこれは男性だなと思った次第である。

 少しして考えてみたのだが、私がその人の事が気になったのは、実は男か女か分からないからだけではなかった。

 まず第一に、文章では伝えにくいのだが、お洒落でない。お洒落でなくて男性に見えてしまう女性というのはしばしば見掛ける様に思うが、お洒落でなくて男か女か分からない男性というのはあまりいない。大概の男か女か分からない男性というのは、少なくとも自分の知る範囲では、大抵お洒落である。

 それから、これも文章では伝えにくいのだが、不思議なオーラがない。要するに普通なのである。男か女か分からない男性というのは離れていてもどこかしら不思議な感じというか、オーラの様なものがあるものだが、それが全くない。

 なんなんだろうなぁこの人は、と思っている内に山手線半周して神田に着いてしまった。でもよくよく考えたら「なんなんだろう」なのは私の方か。

小隊司令部発

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