ドロップは何味だったか?2019年09月15日

 終電間際となってしまった西武線内。そんな時間にも関わらず素面ぽい娘が目の前のシートに座っていて、おもむろに新品のサクマドロップスの缶を鞄から取り出した。これが、開かない。開かないわな。すると子供文具の様なピンク色の透明プラ製定規を取り出して捻りだしたんだけど、明らかに折れそう。この辺りからこちらがもじもじしてくる。

 そしたら次は自分の爪で開けようとし始める。いや無理だって。思わず私は自分の鞄の中から小銭入れを引っ張り出して、100円玉を彼女の目の前に差し出してしまった。「爪折れるだろそれ」。「ありがとうございます!」。意外にハキハキした娘だった。見れば社会人の様だが、多分歳は長女とあまり変わらない位。

 無事蓋が開き、100円玉を返されてからはこちらも文庫に集中。オヤジっぽく「飴は何味だったの?」とか訊けば自然だったかな。しないけど。彼女はそこからずっとスマホでぽちぽちしてたんだけど、これは書くよなぁと思って横目で見てた(w 終電でガラの悪いオヤジにコイン借りてドロップ舐めた、みたいなね。そんなで特にやりとりなく地元駅で下車。何か一言あっても良いのに。いや、なくて良いか。

 
駅前を歩いていると、後から両手を開いて走ってくる若い娘がいる。「おっ父さ〜ん。こんな夜にサングラスとか、お父さんしかいないわ」。バイト帰りの長女だった。「いや今の距離で眼鏡の色とか見えてねーだろ」(実際、サングラスという濃さではないし)。

 早速今の話をしたらウケた。「いや、それは秒で打つよねー」と言われる。あとは道すがらずっと娘のバイト先の愚痴を聞きながら帰った。そんな夜だった。


読書 藤沢周「界」文春文庫

久々の文庫新刊。もう出ないのかとすら思っていた。短編集と思って読み始めたため、何か藤沢周の詰め合わせみたいだな等と思っていた。何とも呑気なものだな。五十路の作家が主人公。東北を漂う。既視感のある風景と既視感のある台詞。知らずに上がったちょんの間での女とのやり取りや、温奴に一味を掛けて燗をやるとか、ああこれでもかという位に藤沢周だった。でも、なんというか、こういうのが好きなんだが。


小隊司令部発

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