懐かしのナポリタンの喪失 ― 2020年02月23日
今回は、懐かしのナポリタンの話を書こうと思っていたのだけれど、書けなくなってしまった。なんだいつも書いてるじゃないかと言われそうだが、いつも揶揄している商品コピーとしての「懐かしのナポリタン」ではなく、自分の本当の懐かしのナポリタンの話である。と言っても子供の頃の話ではなくて、せいぜい10年足らず程度前のことであるが。 十数年前に今の会社に転職してから今までの間に事務所は2回の転居をしているが、いずれも住所は神田だった。しかし神田と名前の付くエリアは意外に広く、電話の局番も変わるくらい入り組んでいる。初めは神田富山町という場所に事務所があった。その隣の神田紺屋町は低層ビルの多い事務所街だが、そこに昔ながらの洋食屋「キッチンビーバー」がある。 壮年夫婦(と当時はそのお母さん)が切り盛りする本当に古い洋食屋(そろそろ創業60周年らしい)。内装は揚げ物の油や煙草の脂が染み着いた様な茶色に染まっている。料理におかわり自由のコンソメスープは付くが、喫茶は一切ない。 同じ神田でも今の事務所からは一駅分位は離れており、何かのついでにそちら側に行くこともない。しかしその日はたまたま、ランチタイムから外れた2時過ぎに近くを通ることになった。そうだ、久し振りに寄ってみよう。 しかし5年近く来ていない。近付くと周辺の建物も少しずつ変わっている様だった。不安な気持ちで角を曲がると、果たして馴染みの建て構えのままその場所にあった。これだよこれ。ショーケースの食品サンプルも並びは変わった様だが相変わらず、の様に見えた。 時間帯が時間帯なので前客なし。ママさんはご健在だったが、私を見ても以前通っていたのを覚えていない様な反応だった。髭も生やしたしな。でも、これを頼めば思い出すよね。 「ナポリタンを」 「あー、今はナポリタン出してないのよ。付け合わせの分だけで。ミートソースもないの」 食品サンプルの違和感はそこだったか。店内のメニューボードにはまだ名前が残ってはいるが、そういうことでは出しようもないだろう。 私は失意のまま、何も注文せず店を出てしまった。何か頼んで、昔話でもすれば良かったのかもと店を随分離れてから思った。でも今更引き返して店に行くのも間が抜けているし、その時の私にとっては、ナポリタンがないのでは意味がないのだった。 ナポリタンのないキッチンビーバーは、見た目は同じなのに人の変わってしまった昔の恋人の様な感じだ。ママも私を思い出さないでくれてむしろ良かったのかも知れない。多分、二度と行くことはないだろうな。 |
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![]() よく見たら、ファサードのテントもリニューアルされていた。 |
![]() 当時のナポリタンの写真を発掘。旨かったんだよね。 |
小隊司令部発BLOG版 神田紺屋町ビーバー 2012年09月30日 この頃はまだ食べログやっていなかったな。 |
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