ホームに上がると列車が止まっていた。と言っても暫く止まっていた感じで、ああ、また遅れているのかとうんざりした気分になる。しかし他に選択肢もないので取り敢えず乗ると、乗客は皆おかしな位置に立っており、従って私は「すみません」らしき言葉を発しながら奥に入っていった。
「停車位置確認のため12分遅れ」というのは何だか全く意味が分からない。「ご案内」は車椅子の誘導だし、「線路に降りたお客様の救助」は遺体の回収だが、停車位置云々とは何の隠語だろうか。聞いたことがない。
いずれにしてもうんざりする程混むことは明白なのだが、窓に映る車内の状態には意外とまだまだ余裕があった。
突然目の前の客がぶつかってきた。何の前触れもなかったので、まさか降りようとしているなんて気づきゃしない。舌打ちは間に合ったが無神経に車内の客を押し分けて降りていく奴の背中には何の効力もない。自分に対する言い訳の様な舌打ちほど間の悪いものもない。
まあ目の前が空いたことだし、ここに座るくらいの代償はあっても良いだろうと思ったが、すぐ隣に歳のよく分からない女性が立っていたので念のため「座ります?」と声を掛けるも全く無反応。仕方ないので自分が座って女を見上げると、その中年女の鬱陶しいボリュームのある髪の間からはヘッドホンのコードが伸びており、目は窓上広告に向いていた。
座る時に無意識に口の中で「(聞いて)ねぇのかよ」と言ったらしく、隣の若い女が僅かに身体を引いたのもまた気に食わない。
早く降りてどこかの酒場に飛び込んでビールを煽りたい気分で一杯になる。まだ動き出してもいないのに。
車内放送では原因説明がはっきりしない。やっと着いた新宿駅のインフォメーションで「こちらで分かるなら教えていただきたいが」と訊くと、ちゃんと把握していた。ホームの異音で停止し、その原因を調べたのだそうだ。
…やはりはっきりしない。
これは随筆で、あれは小説な訳(笑)。 |
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