ノーミュージック・ノープロブレム2008年12月25日

読書 
村上春樹「意味がなければスイングはない」文春文庫

 店頭で私がこの本を手にしたのは著者が村上春樹だからだが、それなりの逡巡があった。何せ私は音楽に興味がない。それでも買ったのは、まさか専門誌で専門家が書くような文章ではなかろうと考えたからだ。そして少々いやらしい話ではあるが、参考にしようとすら考えていた。

 本欄について、よく自転車趣味以外の方から「自転車の話はつまらないのであまり読みません」などと言われることがある。銃器やクルマでその様なコメントをされたことはなかったので意外である。銃の話題の方が余程専門用語を捲し立てているのだが。そんなこともあって、自転車ネタの際は他の話題を混ぜたり、何かの例え話を持ち出したりして書くことがあるが、そうだ、村上春樹なら興味のない人にも読ませる文章を書いているのではないか。参考にしようと、そういう下心があった。

 結果。そういう話ではないのだった。文章は言うまでもなく素敵な洗練されたものだったが、いかんせん興味は湧かない。本書を読んで私がスタン・ゲッツやプーランクを聴きたいと思わないのは、私の中には音楽に対して共鳴する何かが決定的に失われているためであって、それは村上春樹の静謐な筆致をもってしても決して補えないものなのだ。

 読み初めの内は、これはひょっとしてたとえばスニーカーについてのでっち上げエピソードを綴ったエッセイ(ああ、タイトルが思い出せない)の様な村上春樹一流のジョークで、シダー・ウォルトンもブライアン・ウィルソンも架空の音楽家というオチなのではないかと考えたのだが、そういうことは全然なくて、全くもって真っ当な音楽に対する深い愛と広い見識でもって綴られた文章だった。

 自転車に興味のない方が私の自転車ネタを楽しめないのは、私の自転車に対する愛や知識が足りないからか? いや、それは単に私の文章力が低いためだろう。すみません。


この冬最も気に入った夜景(?)。向かいのビルの工事現場。垂れ下がったアルミのダクトパイプが青白いライトで下から照らされていて何ともサイバーパンクな雰囲気。


訪店2度目のG街の店で意外や出会したグレンリベットの旧ボトル。保存用かと思いきや12年の方は開いていたので1杯いただいた。

本文と関係ないが、本日で四十二となった。メリークリスマス。仏教徒だけど。

小隊司令部発

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