公害と紙一重2006年12月14日

 「ADトレイン」というのはJR東日本の広告代理店での呼称で、他社はまた異なる。要するに1編成まるまる同じスポンサーの広告を掛ける列車のことだ。

 「ADトレイン」の媒体料はかなりの額*になる。従っていい加減なクリエイティブは許されない。残念ながら「ADトレイン」の仕事をしたことはないが、どのように大変であるかは専業者として概ね想像が付く。

 だから大抵の「ADトレイン」の制作物は「さすが」と思わされる物が多い。1両完結の物語のようになっていたり、トリッキーな構成になっていたり、たまに絨毯爆撃の様な物もあるが、大抵は全体の構成がよく考えられたものになっている。

 それでもたまに、「これは酷い」としか言い様のないものもあり、これに金を出すスポンサーは悲惨だなと一瞬思ったりもする。しかし、広告は芸術ではなく客商売であるから、酷い広告というのはそもそも酷いスポンサーによって作られるのだ。これは意外に誤解されていることが多い。

 そういうものが「ADトレイン」に掛けられていると、悲惨なのは乗客の方である。酒場でたまたま隣席に居合わせた知らない奴のつまらない自慢話やくだらない冗談に延々付き合わされるようなものだ。これを悲惨と言わずして何と言おう。公害と言っても言い。

 街中の看板よりは駅の中に掲げられる看板の方が媒体料は高い。人が多いのだし、そして大概の人は“そこに居ざるを得ない”というある種の拘束力がある。そういう意味ではある種の責任感を持って作らなければならない様に思う。

 近年駅構内は壁面に限らず床や什器など、所構わず媒体化されている。時折思わぬ場所が広告になっていてドキリとすることがある。「印象に残る」というよりは厭な感じがする。いつぞや書いた改札脇で「おはよーございます」と声を張り上げるお笑いタレントのくだらない人形みたいのは勘弁して欲しい。あれは明らかに公害だ。

*
11両編成の山手線を高額月に半月借りると約1,600万。 これが高いかどうかは専業でなければわからないか。実は私も媒体屋ではないのでわからない(笑)。

ADトレイン(ジェイアール東日本企画)


読書 井上荒野「潤一」 新潮文庫

 漂うように生きる潤一と彼を巡る9人の女性達の物語。余程すかした男だろうと思い読み始めると、妙に軽薄な若造なんである。出てくる女はやたら発情してるし中盤までは大丈夫なのかと思う。いや、大丈夫なんである。さすが井上荒野だと思う訳である。


小隊司令部発

「栴檀林小隊」各トップページの更新とは別に、概ね2〜5日毎に更新中。
本欄のバックナンバーはブログ以外にもジャンル別に読める「公文書」で。