マスター2006年12月09日

 私は人の名前を覚えられない。顔ほどには、という程度ではあるが。

 場には関係がなく私自身がそういう性質なので、仕事でも、あるいは例えば酒場でも人の名前はあまり覚えられない。

 他の客を覚えられないくらいは誰でもままあるとして、店主店員の名前もなかなか覚えられないのである。通う店は1人2人でやっているようなショットバーがほとんどなのだが、通い始めて半年ほど経ってからも心許ないことがある。ましてや、皆が呼ぶ愛称はまだしも、ちゃんと訊いているはずの本名はなかなか覚えられない。

 そんな私ではあるが、酒場で店主に対し「マスター」と呼びかけることはほとんどない。いや待てよ、通っている店で店主を「マスター」と呼ぶ人の方が少なくはないか。馴染みの店で呑んでいて、店主のことを「マスター」と呼ぶ客がいると、他の常連がどんな表情をしているか気になりつい顔を見てしまう。口の端が曲がっている様でもあり、優しく目を細めている様でもある。

 幸い名前を覚えられても、今度は呼び方が定まらない。呼び捨てにすることはあまり多くはないのだが、「さん」なのか「くん」なのか、あるいは愛称なのか。歳は、あまり関係ない。店員と客であっても、殊に酒場での関係性というのは微妙だという気がする。

 久しぶりのバーに行く。遠くに越した知り合いが私宛の荷物を預けているのだが、その店のあるのが滅多に行かない街ということもあって半年以上もそのままにしてしまっていた。申し訳ないほどに不義理である。ここの店主を私は「マスター」と呼ぶ。私は顔見知りだが常連とは言えないので当然と言えば当然だが、その店を教えてくれた知り合いは常連なのに彼らのほとんどもまた店主を「マスター」と呼ぶ。皆名前は知っているのに。

 もっともこの「マスター」の場合、ハンドルネームがマスターであるからして、言っている意味が違うのかも知れない。


 で、その日はマスターの後、おさむくん関根君ちさとちゃんは満席だったのでのりちゃん、最後にふるくん、てなコースでした。やれやれ。


読書 竹内真「自転車少年記ーあの風の中へー」新潮文庫

 ちょっと“自転車もの”ということで選んだが、思っていたよりは面白かった。もっとも、帯に入っていた「ジャニーズタレントで映画化」云々の話で第一印象は悪かったのだが。つまらん副題付けるなぁ(失礼)と思っていたら、単行本とは“別アレンジ”となっているからなのだった。


小隊司令部発

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