靴と時間潰し2008年10月02日

 待たされた得意先に恐縮されると、「時間を潰すのも営業の仕事ですから」とか言ったりする。

 ある人は「ほう」という顔をしてからニヤリとし、ある人は「またぁ」とだけ言う。何かのハウツー本に書かれていた言葉というわけでもないので(そもそもそんな物は読まない)、どちらかと言えば本心である。営業トークだが、そういう意味では心はこもっているのである。多分。

 その日は伊勢丹の紳士靴売り場にいた。その時間潰しは40分程で結実したが、こういう時に困るのは、当たり前だが大きな買い物は出来ないということか。靴売り場にいながら間抜けな話だが。

 その時履いていた靴は、全体は大してくたびれてもいないのに爪先近くの縫い目辺りに小さく裂け目が入っていた。ここは修理不能だろう。そこで、靴を買い、古い靴は破棄して貰うよう頼んだ。スマートな買い物だが、いつも買う靴とはいえ足に馴染むまでは歩きにくく、歩き方の方は何ともスマートではなくなった。

 さて用事も済み、そのまま帰ればボードに書いた時間通り。もっとも、帰っても特に急ぎでやることはない。もう1人待って雑談でもしていくかと、得意先の入っている駅ビルで少し時間を潰すことにした。

 自分が靴を買ったばかりのためか、他人の靴にばかり目がいく。いや、椅子に掛けて本を読んでいて視点が低かったためかも知れない。

 そのフロアの客層よりだいぶ若いカップルが、何やら大荷物を抱えて買い物をしていた。男に寄り添ってヨタヨタ歩く女がやけに初々しく見えたが、よくよく見るとヨタヨタには理由があった。女は薄紫のトップスに合わせてか薄紫の靴を履いていたが、サイズが明らかに合っていない。その靴でそんなに買い物をして電車で帰るのは辛かろうよと思うが、見知らぬ2人がタクシーに乗るかどうかに気をやむのも馬鹿馬鹿しい気がしてやめにした。

 気付くと予定の時間をだいぶ過ぎており、時間を潰し過ぎたことを知る。


本文とは関係なくて、これは娘の靴(ピアノ発表会用)。しかし24cmか…。


読書 藤沢 周「サイゴン・ピックアップ」河出文庫(再読)

収録の「サイゴン・ピックアップ」と「白ナイル」「ベナレス・クロス」は、時系列上は長編ではなく続き物の短編。“感情ではなく状況”が藤沢作品とすれば、禅寺というのはお誂え向きの舞台ではないか。しかしさ、警策(きょうさく)くらいルビ振った方が良いよな。仏教識者ばかりが読む訳でなし。


小隊司令部発

本欄はサイト内の各コンテンツの更新とは別に、概ね2〜5日毎に更新中。バックナンバーは「公文書」でもどうぞ。ブログ部分は「人気ブログランキング」に自転車カテゴリーで参加中。ワンクリックのご協力を。