バナナ屋の親父2008年10月18日

 朝の活気が一段落する時間。会社まで数十メートルのところであらかじめポケットに投げ込んであった100円玉を取り出す。“バナナ屋”の店頭のカゴにはいつもの様に10種類くらいのペットボトルが並んでいる。その中の一つを掴み店に入る。

 先客が1人。チャコールグレーのジャケットに地味だが高級そうなシャツを着た五十絡みの男。やけに無邪気な話し方で、店の親父に柿が喰いたいんだと話し掛けている。二日酔いか同志よ。親父が相変わらず聞き取りにくい声で返す。「硬いのなら…。柔らかいのなら柚子柿。そこの、2段目の」。

 選択肢があるのか。親父、本当に果物屋だったんだな。私はてっきり、アリバイ代わりに店頭にバナナだけ並べている単なるビルオーナーの暇つぶしだと思っていた。だから“バナナ屋”と呼んでいる。6坪程度の店の奥には、これも言い訳程度にカップラーメンやスナック菓子が並んでおり、棚のスカスカさ加減は大分前に訪れた北京のデパートの香水売り場を思い起こさせる。その果物屋の屋号と同じ名前が8階建てのビルにも付いている。

 私はこの店で飲み物しか買ったことがない。500mlペットのドリンクのほとんどが100円。結構な種類があるが、2/3位が100円。商売する気があるのか? 呑み過ぎた日の翌朝は、私は決まってここでスポーツドリンクを買う。だから顔くらい覚えられていそうなものだが、この親父の愛想を聞いたことはないし、それどころか「ありがとうございます」とすら言われた記憶もない。商売する気があるのか?

 しかし「柚子柿」ってどんな柿だったか。もとより果物の品種銘柄なぞほとんど関心のない私なのだが、調べてそれは柚子風味の干し柿のことだと知る。…全然果物じゃないじゃないか。菓子だろ菓子。確かに「柿が喰いたい」という客のリクエストには答えてはいる。答えてはいるが、それは果物屋の答えなのか? それがホスピタリティなのか? 私には分からない。


今秋はカメムシ大発生の我が家だが、こちらはテラスの物干しに卵生み付け中のカマキリ。まだお尻が繋がっている。発泡コンクリの壁面は毎年カマキリの卵が増えていくのだが、金属部にはやめてくれ…。


そんな訳で不法滞留撤去させていただきました。珍しいカマキリ卵(卵鞘:ランショウ)の裏面。希望者には差し上げますが、屋外保管をお薦めします。


読書 藤沢 周「雪闇」河出文庫(再読)

作品毎に全く異なる主人公の職業描写が異常なほどリアルな藤沢だが、方言に関しては自らの故郷・新潟のものであることがほとんどである。その新潟が舞台となる本作は、他の藤沢作品とはなにやら雰囲気が異なる。狂気の現実から破滅の向こうへ行ってしまうことが多いのだが、本作では故郷愛と共に希望の様なものすら見える。
藤沢周月間は、河出文庫読破で一時休止。3冊ほど買い貯めてしまったのでそちらを先に読もうかなと。


小隊司令部発

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